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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3438号 判決 1950年6月15日

被告人

杉浦秀治郎

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人信正義雄の控訴趣意第一点について。

(前略)更に弁護人は本件については昭和二十四年七月三十日原審公判で多数の証人が取調べられたのであるが、裁判所はまず証人高岡敬治、望月元治を訊問し次で証人沢田菊治郎を訊問したところ同証人は被告人に利益な供述をし警察に於ける被告人に不利益な供述をするに至つた事情を述べたので検事より偽証の現行犯として逮捕せられ、その後に取調べられた多数証人は警察や検察庁でした供述と異る供述をすれば沢田菊治郎同様の厄にあうことを恐れ真実に反して供述したと主張するけれども凡て証人は宣誓した以上良心に従い真実を述べるべきもので、若し之に反して供述すれば偽証罪の制裁を受けねばならぬことは取調べに先だち原審裁判所より告げられているところであるから、証人沢田菊次郎が偽証罪の現行犯として検事に逮捕せられたとしても己むを得ないことであつて而もその手続が弁護人主張の如く爾後の証人の尋問の始まる前になされたかどうかは本件の記録では明かでないのであるが(後に尋問を受くべき証人は法廷の外で待機しているので前に尋問を受けたる証人の尋問当時の法廷内の事情はこれを知る機会がないのが普通である)弁護人主張の通りであつたとしても、その措置の当否は別としてかかる検事の処置があつたからとて爾後の証人が全て検事に迎合して真実に反する以前の供述と変らない供述をしたというが如きは必ずしも断定できない原裁判所は合理的な心証に基き爾後の証人の供述を真実であると判断したのであつて、その判断には少しも実験則に反する点は見受けられない。弁護人の主張は要するに被告人に不利な供述は凡て偽証であるとの独断に基因する論旨であつて到底採用できない。

(弁護人信正義雄の控訴趣意)

第一点の三 公廷に於ける証人は或種の恐怖感より真実を供述し得ざりしものありと信ずる。即ち七月三十日の公廷に於て多数の証人調ありたるが、まず証人高岡敬治、証人望月元治を訊問し次で証人沢田菊治郎を訊問したるが証人沢田菊治郎は被告人に有利なる供述を為し、殊に警察に於て被告人に不利なる供述を為すに至りしは「最初まず望月、高岡等の調あり調を受けたる帰途沢田菊治郎方に立寄り本日警察に於て自分は斯く々々陳述して来たから沢田も若し取調ありたる時は自分の供述と合致する様陳述せられたしとの依頼ありたる故望月同様に被告人に不利なる虚偽の陳述をしたものなり」と供述し(この供述は原審記録に無きも沢田菊治郎の偽証被疑事件検事聴取書に依り明なり)「私が警察で係官に尋ねられる前に望月元治さんが訊かれており、私が本当の事をいうと係官は『杉浦の罪状は挙つておるゴテゴテいうとお前も杉浦の同類だ』と脅かされました。それで仕方なく警察の人の誘導されるままに望月さんのいつた様に口を合せて警察で述べました」等と供述したところ同証人の証言終るや立会検事は偽証の現行犯なり仍て逮捕手続をするとてその後の公廷の証人調を中止したるものにしてこの事は公廷に一沫の動揺恐怖感を与え従つて中止後の多数証人は警察、検事の面前に於て述べたると同趣旨の供述を為すにあらざれば、沢田同様の厄に遭う事を虞れ真実を語り得ざりしにあらざるやを疑うに足ると信ずる。

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